最近、「腸活」という言葉をよく耳にします。実はこの腸の中の「腸内細菌」ですが、幼児期の感情制御に関連していることがわかっています。
ASD(自閉スペクトラム症)の原因として広く知れ渡っているのは「セロトニン機能不全説」、次いで「ドーパミン受容体減少説」です。主流であるセロトニン機能不全=セロトニンが少ないことに関しては、多くの臨床実験が行われてきました。
また、脳で機能するセロトニンですが、その8割以上は腸にある事がわかっています。セロトニンは、脳内神経伝達物質のひとつで、興奮の「ドーパミン」、ストレスを感じた際に出る「ノルアドレナリン」を制御し、精神を安定させる情動の基盤的な働きをします。
ASDのお子様は、見通しがないと混乱しやすく、イレギュラーなことがあると切り替えや柔軟な対応が難しいため怒ったり泣いたりします。言い換えれば、「実行機能」という脳の機能が未発達ということになります。
実行機能(あるいは遂行機能)は、定義を調べても内容が若干違っていたり、同じように見えて違っていたりという、非常に広範囲な定義です。理由は、単一の脳機能ではなく、目標に対し計画・開始・修正・維持など複数の認知機能からなる包括的な脳の機能だからです。
実行機能の例としては、「目標のための計画を立て、目標を達成するために自分の行動や思考、気持ちを調整する」というものがあります。
ここでいう目標とは、「将来の目標」のような大きなものではなく、日常生活の中で自分のしたい/すべき行動すべてを指します。(例えば、着替えをする・料理をする・お風呂に入る・家から職場まで移動する・効率よく仕事をする…など)
実行機能が具体的にどのような要素を含んでいるのか、研究によってさまざまな見解があります。多くの場合、下記のような点が実行機能の要素として取り上げられています。
- 見たり聞いたりしたことを少しの間記憶したり、記憶をもとに考えたりする力と関連があること(ワーキングメモリ)
- 行動に必要な情報を整理して目標を立てること(共通実行機能)
- 気持ちや行動を柔軟に切り替えること(シフティング)
- 行動するために過去の経験を参照すること(情報の更新)
- 目標には直接関係のない行動をしそうになっても我慢すること(抑制)
具体的な例をお母さんが作る夕食に例えると
上記のような、目標に対し合理的に考え、同時並行作業をしながら一連の作業を遂行することが実行機能の簡単な例えです。
ここでは、自己の感情や欲求をコントロールする「感情制御」と、言語化、推論、計画、実行などを司る「認知制御」から成る総称通してお話を進めます。
実行機能の顕著な発達は幼児期後期(4歳頃)にみられますが、これはこの時期の前頭前野の急激な成熟と密接に関連しています。
自己の欲求や感情をコントロールするのは前頭葉ですが、前頭葉は幼児期に顕著に発達します。また感情制御を含む実行機能が、腸内細菌叢や食習慣と関連することがわかりだしました。そして、緑黄色野菜の摂取頻度や偏食が、感情制御の発達リスクに影響することもわかりました。
心身の健康や脳機能を支える神経生理メカニズムのひとつとして、腸内細菌叢が注目されています。現代では精神的な不調を訴える方が多くなっていたことも、この腸内細菌叢が注目される背景にあります。
脳―腸―腸内細菌叢は、免疫系や内分泌系、自律神経系を介して密に関連しています。これを、「脳―腸―腸内細菌叢相関」と言います。成人を対象とした研究では、腸内細菌叢の特性が、精神疾患(うつ病、不安障害など)や認知機能に関連することが示されつつありますが(e.g., Kelly et al., 2016, Saji et al., 2021)、 ここで重要となるのは、個人が生涯もつことになる腸内細菌叢の基盤は生後3~5歳頃までに決まることです (Roswall et al., 2021, Stewart et al., 2018)。
これは、上述のように、感情制御が顕著に発達する時期と一致します。この時期に成人レベルに安定化する腸内細菌叢は、感情制御を含む実行機能の発達と関連する可能性があります。腸内細菌叢の組成は、食生活習慣に大きく依存します。とくに、腸内細菌叢が安定化するまでの乳幼児期には、その影響はきわめて大きいと考えられます。
腸内細菌叢の基盤は幼少期に決まりますが、成人でも腸内細菌叢は精神や睡眠、健康に大きく貢献します。
カップラーメンやふりかけしか食べない、決まったもの以外は口にしないのがASDのお子さんの特徴ではありますし、嫌がることを無理強いすると2度と食べないというリスクはありますが、実は食わず嫌いだったということも多々あります。
そして、腸内細菌を増やしても、腸の蠕動運動が不足すると、腸内フローラには良い影響は出ません。腸の蠕動運動を促進するには、ウォーキングやジョギング、ストレッチなど、筋肉に刺激を与え、お腹周りの血行を良くすることが大切です。
引用参考文献:幼児期の感情制御は腸内細菌叢と関係する ― 腸内細菌叢を活用した新たな発達支援を目指して ―
文責:景山
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